プロダクトバイプロセスクレーム大合議事件の原審解説
プロダクトバイプロセスクレームに関する侵害事件の控訴審について、知財高裁は大合議で審理することを決定しました。
知財高裁の発表はこちらをご覧ください。原審の判決はこちらをご覧ください。
以下、原審の判決について、簡単にご説明します。
1.原審判決の概要
原審では、プロダクトバイプロセスクレームに係る特許発明の技術的範囲が争点となっております。従来から、プロダクトバイプロセスクレームの権利解釈には、次の2つの説があります。
A)同一性説
物としての同一性がある限り当該生産方法とは異なる製造方法により生産された物にも権利が及ぶとする説。
B)限定説
当該生産方法によって生産された物にしか権利が及ばないとする説。
従前の裁判例では、「同一性説」が主流となっております。ただし、同一性説を採用する判決文の多くが、原則として同一性説を採用しつつ、「禁反言の原則」に基づいて、クレームに記載された製造方法に限定して権利範囲を解釈しております。
要するに、従前の多くの裁判例では、原則として同一性説を採用し、特段の事情がある場合(禁反言の原則等)、限定説を採用して権利解釈をしております。
これに対して、上記原審は、原則として限定説を採用し、特段の事情がある場合、同一性説を採用するという、従来とは逆の論理を採用しております。
このように、原則として限定説を採用する裁判例は現在まで非常に少なく、大合議での審理により、プロダクトバイプロセスクレームの権利解釈として、原則として同一性説を採用すべきか、限定説を採用すべきかが明確になる可能性があります。
2.原審判決の詳細
(1)概要
原告であるテバ ジョジセルジャール ザートケルエン ムケド レースベニュタールシャシャーグは、平成13年10月5日に日本国にパリ優先権主張出願を行い、平成17年11月4日に特許権を取得しました(特許第3737801号)。本件特許の特許請求の範囲の全ての請求項は、物の発明であって当該物の製造方法が記載されたもの、いわゆる、プロダクトバイプロセスクレームであります。
原告は、被告である協和発酵キリン株式会社の医薬品「プラバスタチンNa塩錠10mg「KH」」が本件特許を侵害するとして、上記医薬品の差止及び廃棄を求め、東京地方裁判所に提訴しました。
東京地裁(民事第29部)は、プロダクトバイプロセスクレームの権利解釈について判示したうえで、被告の医薬品は原告の特許発明の技術的範囲に属さないと判示し、原告の請求を棄却しました。
(2)主な争点
主な争点は、プロダクトバイプロセスクレームに係る本件特許発明の技術的範囲につき、製造方法を考慮すべきか否か、です。
(3)原告特許の特許請求の範囲
原告特許の特許請求の範囲内の請求項1は次のとおりです。
【請求項1】
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。
上記請求項1は、その後の無効審判に対する訂正請求により、構成e)以降が、「e)プラバスタチンナトリウムを単離すること,を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」に訂正されております。
なお、無効審判は、請求が棄却されております。
(4)上記争点に関する裁判所の判断
裁判所は、上記争点に関して、次のとおり判示しました。
[プロダクトバイプロセスクレームの一般的解釈について]
裁判所はまず、プロダクトバイプロセスクレームに係る特許発明の技術的範囲の一般的な解釈について、次のとおり述べました。
「ところで,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づき定めなければならない(特許法70条1項)ことから,物の発明について,特許請求の範囲に,当該物の製造方法を記載しなくても物として特定することが可能であるにもかかわらず,あえて物の製造方法が記載されている場合には,当該製造方法の記載を除外して当該特許発明の技術的範囲を解釈することは相当でないと解される。他方で,一定の化学物質等のように,物の構成を特定して具体的に記載することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ない場合があり得ることは,技術上否定できず,そのような場合には,当該特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定して解釈すべき必然性はないと解される。したがって,物の発明について,特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には,原則として,「物の発明」であるからといって,特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく,当該特許発明の技術的範囲は,当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであって,物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」
つまり裁判所は、物の特許発明の技術的範囲の解釈について、次の2つのポイントを述べております。
(1)原則、特許請求の範囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではない。
(2)ただし、物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり、当該物の製造方法によって、特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの「特段の事情」がある場合に限り、当該製造方法とは異なる製造方法により製造された同一物も、特許発明の技術的範囲に含まれる。
[本件特許発明が「特段の事情」に該当するか否かについて]
次に、裁判所は、上記クレーム解釈に基づいて、本件特許発明が「特段の事情」に該当するか否かを検討し、次のとおり述べております。
(A)裁判所はまず、本件特許の請求項1を参照し、「本件特許の請求項1に記載された『物』である『プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム』の構成は,その記載自体によって物質的に特定されており,物としての特定をするために,その製造方法を記載せざるを得ないとは認められない。」と認定しております。
(B)裁判所はさらに、出願経過を次のとおり参酌しております。本件特許の出願当初、特許請求の範囲には、製造方法の記載を含む物クレーム(上述の請求項1と同じ)と、製造方法の記載を含まない物クレームとが含まれておりました。審査段階において、製造方法の記載を含むクレームに対しては拒絶理由が挙げられなかったものの、製造方法の記載を含まない物クレームに対しては進歩性がないとされて拒絶査定を受けたため、原告は、製造方法の記載を含まない物クレームを全て削除し、特許査定を受けるに至っております。裁判所は、上記(A)及び出願経過を参酌したうえで、「本件特許においては,特許発明の技術的範囲が,特許請求の範囲に記載された製造方法によって製造された物に限定されないとする特段の事情があるとは認められない(むしろ,特許発明の技術的範囲を当該製造方法によって製造された物に限定すべき積極的な事情があるということができる。)。したがって,本件発明1の技術的範囲は,本件特許の請求項1に記載された製造方法によって製造された物に限定して解釈すべきである」と結論付けました。なお、裁判所は、本件訂正発明に対しても、「訂正後の請求項1に記載された製造方法によって製造された物に限定して解釈すべきである」と結論付けております。
[被告医薬品が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて]
上述の特許発明の技術的範囲の解釈に基づいて、裁判所は、被告医薬品が、請求項1に係る本件特許発明(及び本件訂正発明)の技術的範囲に属するか否かを判断しました。裁判所は、被告医薬品の物の構成(プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム)については、本件発明と同一であると認定しましたが、被告医薬品は、本件発明と異なる製造方法で製造されたものと認定し、被告医薬品が本件特許発明(及び本件訂正発明)の技術的範囲に属さないとして原告の請求を棄却しました。
以上



